免疫遺伝子研究室
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| 研究内容 私たちは、様々な病原体から体を守る免疫のしくみについて研究しています。免疫のしくみは、随分解明されてきましたが、未だに様々な新しい病原体による感染症が発生し、よく効くワクチンが作成できる病原体は限定されています。エイズの原因ウイルスであるHIVに対して有効なワクチンは、未だにできていません。アレルギーや自己免疫疾患など、免疫システムの異常が原因と考えられる疾患については、どのような異常で発症するのか不明であり、対症療法の進歩はありますが、根本的な治療法はほとんどありません。癌細胞を排除することも免疫の仕事ですが、ふせぎきれずに癌になる人が多数います。癌細胞を排除する機能を持つ免疫のしくみを利用して、癌に対する免疫療法が試みられていますが、その効果は癌治療の中心となるほどには充分ではなく、免疫システムを充分に利用することができていないのが現状です。免疫のしくみを利用して、様々な病気の予防や治療をおこなうために、免疫システムについての知識は、まだ不十分で、様々な角度から研究を進めていく必要があります。 私たちの研究室では、免疫システムに属するふたつの細胞群の解明を研究テーマとしています。ふたつの細胞群とは、T細胞と樹状細胞です。免疫システムは、病原体などが侵入した時、ただちにそれを認識して攻撃を開始する細胞群(自然免疫系の細胞群)と、侵入した病原体に高い特異性を持って、しばらくしてから攻撃を開始する細胞群(獲得免疫系の細胞群)に分ける事ができます。樹状細胞は、自然免疫系に属しており、T細胞は獲得免疫系に属しています。樹状細胞は侵入してきた病原体を取り込み、その情報をT細胞に伝達する役割を担っています。この情報の伝達は「抗原提示」と呼ばれます。免疫システムの細胞群は、おたがいに刺激し合ったり、逆に抑制したり、ネットワークを形作って病原体の排除をおこないます。このような細胞同士のつながりは、数多くの種類があるサイトカインと呼ばれる分泌タンパク質の産生や、細胞同士が細胞表面の接着分子を介して結合することにより成り立っています。 それでは、私たちの研究テーマについて、わかりやすく紹介します。 1、樹状細胞について 免疫システムを構成する主要な細胞群は、血液細胞の仲間で、特定の臓器にとどまらず、血液やリンパ液を介して移動するものがほとんどです。形態も刺激を受けていないときは、丸い形をしていますが、刺激されるとアメーバのように形が変化します。その中で樹状細胞は、木の枝のような突起をたくさん持った、まるで神経細胞のような形をした血液細胞です。T細胞をはじめ種々の免疫システムの細胞群と結合して情報交換するために、樹状の突起を持つとも考えられますが、正確な理由は不明です。樹状細胞には様々な種類があります。このように特定の細胞群の中で、さらに異なる機能を持つ複数の細胞群が存在する場合、サブセット(亜集団)と呼ばれます。後半で紹介するT細胞にもたくさんのサブセットがあり、目的に応じてサブセットに分かれて異なる役割を司るという性質は、様々な臓器や組織で見られますが、免疫システムにおいて、その研究が大変進んでいます。私たちは、樹状細胞の中で、形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid Dendritic Cell, 以下pDCと略します)というサブセットを中心に解析しています。pDCはI型インターフェロン(type I Interferon,以下type I IFNと略します)と呼ばれるサイトカインを大量に作る性質を持っています。type I IFNは、ウイルスの感染が生じた時、生体防御に必須なサイトカインです。ウイルス性肝炎などの疾患の治療薬として知られています。type I IFN の受容体を欠失したマウスでは、type I IFN が作用できず、ウイルス感染による症状が重篤になります。type I IFNは、体の様々な細胞に作用し、細胞内のウイルスの増殖を抑制します。またT細胞(CD8陽性T細胞)、B細胞などの免疫システムの細胞群に作用して、ウイルスに感染した細胞の細胞死を誘導してウイルスもろとも排除したり、ウイルスの機能をおさえる抗体を産生させたりすることで、体内でのウイルスの増大を防ぎます。形質細胞様樹状細胞という複雑な名前がついていますが、これは抗体と呼ばれるタンパク質を大量に産生する形質細胞と形態が似ていることから命名されました。侵入するウイルスを待ち構えている状態では、樹状突起は持たず、形質細胞と同じように、タンパク質(type I IFN)を大量に産生できるように、小胞体と呼ばれる細胞内小器官が発達しており、特徴的な形態を示します。pDCは、ウイルスを認識する能力に優れた受容体群を持ち、type I IFNを産生しますが、他にどのような機能を持つのか、未解明な部分が多く有ります。 (1)pDC特異的タンパク質の解析 pDCに特異的に発現するタンパク質に着目して、その解析を通してpDCの機能をあきらかにするプロジェクトを進めています。着目したタンパク質のひとつはBst2と呼ばれます。このタンパク質は、pDCの細胞表面に発現しており、マウスのpDCでは、pDCの目印として利用されるほど高い発現があります。また他の細胞でも、type I IFNにより誘導されること、癌細胞のなかで高発現しているものがあること、慢性関節リューマチの関節などの炎症をおこしているところで高発現していることなどが知られています。またエイズを引き起こすヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus, HIV)の研究から明らかになったのですが、HIVが細胞内で増殖し、細胞外へ放出される(出芽と呼ばれます)際に、細胞膜にウイルス粒子をつなぎ止めてしまい、細胞から離れる事ができないようにする機能があります(図1)。つなぎとめる(tether)という言葉からtetherinという名前がつけられました。Bst2とtetherinは同一タンパク質です。CD317という名前も持っています。多くのウイルスは細胞から放出される時、細胞膜の一部で表面を覆います。これをエンベロープといいますが、tetherinはエンベロープと細胞膜をつなぎとめて、ウイルスが広がるのをふせいでいます。Bst2/tetherinは種々のウイルス感染に対して、どのような効果があるのか、免疫システムの中で、生体防御に関連した他の機能を持っているのか、Bst2/tetherinを認識するタンパク質などは存在するのか、など多くの疑問があります。私たちは、遺伝子欠失マウスの作成をはじめ、いろいろな実験法を駆使して、このタンパク質とpDC、ウイルス感染、免疫システムとの関係を解析しています。 ![]() (2)自己免疫疾患の発症機序 免疫システムは、自分自身以外のものを認識し攻撃、破壊するようにできています。この認識のしくみは、大変巧妙にできていますが、それがなんらかの異常によりうまく機能しなくなると、自分自身を攻撃したり、攻撃する必要のないものを攻撃するようになり、免疫システムの異常による病気、自己免疫疾患が発症します。慢性関節リューマチでは、関節に強い炎症がおき、最終的には関節を破壊してしまいます。アレルギー疾患は、花粉やハウスダストなど、免疫システムが反応する必要がないものがアレルゲンとして認識され、それを排除しようとすることで発症します。このような免疫システムの認識のしくみの異常がなぜおこるのか、ほとんどわかっていません。しかし、免疫システムが活動する時、どのような種類の細胞が、どのような作用をするのかということの解明が非常に進んだため、活性化した免疫システムを抑制することで、自己免疫疾患やアレルギー疾患の症状をコントロールすることが可能になってきました。慢性関節リューマチなどの自己免疫疾患では、TNFやIL-6といったサイトカインの機能を抑制する薬品が、症状の改善に強い効果があります。したがって、これらのサイトカインが、何らかの理由で過剰に関節などの特定の部位で産生されてしまうことが問題であることがわかります。すでに述べたtype I IFNは、ウイルス感染から体を守るために必須のサイトカインですが、これが過剰に産生されることが、腎炎や皮膚炎など全身に症状のでるSLEや皮膚炎が主要な症状である乾癬といった自己免疫疾患の原因ではないかという仮説があります(図2)。type I IFNの主要な産生細胞がpDCであることを考えると、pDCが、これらの疾患に関与する可能性があります。IRF2という遺伝子を欠失したマウスは、type I IFNの産生が亢進して、皮膚炎を発症します。皮膚炎がtype I IFNによって引き起こされる事は、type I IFNの受容体を失わせると皮膚炎が発症しなくなることから証明されました。このマウスは乾癬の疾患モデル動物のひとつです。このマウスを用いて、pDC、type I IFNと皮膚炎の発症について解析しています。このモデルマウス以外でも、いくつかの遺伝子改変マウスを用いて、自己免疫疾患や感染症の解析をおこなっています。 ![]() 2, T細胞について T細胞は、リンパ球に分類される血液細胞で、様々なサイトカインを産生して免疫システムを制御し、病原体に感染した細胞や癌細胞を直接傷害します。T細胞はT細胞受容体と呼ばれる病原体などを特異的に認識するタンパク質を発現していることが特徴です。T細胞受容体に刺激がはいると、活性化して様々な機能を発揮しますが、特定の機能を持つサブセットに分化して働きます。サイトカインには作用の異なる多くの種類がありますが、産生するサイトカインの種類からサブセットを分類することができます。ガンマ インターフェロン(IFNγ)と呼ばれるサイトカインは、細胞内に侵入した細菌やウイルスを排除するために、マクロファージや樹状細胞など、多くの免疫細胞の機能を亢進させ、感染症の発症を抑制するために必須ですが、このサイトカインの主要な産生細胞のひとつとして、Th1サブセットがあります。産生するサイトカインの種類とT細胞サブセットを図3に示しました。各サブセットは、プレカーサーT細胞あるいはナイーブT細胞と呼ばれるT細胞から分化します。T細胞サブセットという概念が提起されてから長い間、Th1とTh2のふたつのサブセットについての研究が進みましたが、最近、Th17をはじめ多数のサブセットが見いだされており、その種類はさらに増大すると思われます。産生されるサイトカインの作用から、そのサブセットの機能が規定され、どのような免疫応答が誘導されるかを制御することになります。サブセットの種類が増大することで、免疫応答において、各サブセットの誘導はどのように制御されているのか、重要ですが、さらに複雑なしくみを解明しなければなりません。一方、その多様性はサブセットへの細胞分化の柔軟性、あるいは可塑性を示しています。細胞分化のモデルとしても、T細胞サブセットに私たちは興味を持っています。iPS細胞作成の成功は、様々に分化した細胞種であっても、最も未分化で、体内のどのような細胞にでも分化する能力を持つ万能細胞にもどすことができることを示しました。細胞が分化するということの柔軟性を示した、最も極端な事例ということができると思います。細胞分化とその可塑性について、T細胞サブセットを他の細胞分化系と比較しながら研究しています。 ![]() (1)T細胞サブセットの分化とエピジェネティック制御機構 細胞分化に伴う遺伝子の発現制御のしくみの研究には長い歴史があります。第1に転写因子と呼ばれるタンパク質群が存在します。特定の遺伝子の発現を誘導、あるいは抑制するために必要なDNA結合タンパク質で、発現が制御される遺伝子の近傍に存在する制御配列と特異的に結合することにより作用します。第2にエピジェネティック制御があります。mRNAの合成(転写)はRNAポリメラーゼIIという酵素がおこないますが、転写因子とRNAポリメラーゼIIの間に、数多くのタンパク質群が介在します。DNAはヒストンタンパク質にまきついたヌクレオソームと呼ばれる構造が数珠のようにつなぎ合わされた構造をしています。さらに未知の高次構造を取り、細胞核の中に非常にコンパクトに収納されて、染色体として観察できます(図4)。 ![]() このヒストンを移動させたり、DNAから外したりする作用を持つ、クロマチンリモデリングファクターや、ヒストンをアセチル化、メチル化、リン酸化など修飾することで、遺伝子の転写を制御するヒストン修飾酵素が存在します。またDNAの塩基のメチル化が、DNAへの転写因子の結合やRNAポリメラーゼIIによる転写の効率を抑制するため、DNAのメチル化を制御する分子機構も、重要な遺伝子発現制御機構です。さらに、DNAを束ねてループを形成し、DNAをループごとの区画に分ける構造に必要なタンパク質群の存在も示唆されています。このような転写制御に関わる様々な染色体構造の制御の総称をエピジェネティック制御と呼びます。塩基配列の変異を伴わない、遺伝子発現の変化の解析をエピジェネティックスと呼び、様々な染色体制御の分子機構の解明がなされました。多くの研究者が、特定の遺伝子の発現制御を解析することで、全体として制御機構の共通性や特異性が明らかになってきていますが、まだ断片的で遺伝子発現制御のしくみについての全体像は描けていません。たとえば、転写因子の認識配列は染色体上に無数にありますが、クロマチン免疫沈降法という実験法を用いると、その一部分にしか結合していません。すなわち塩基配列の特異性だけで、結合が制御されているわけではないのですが、実際に結合する場所を決定するために、他のどのような分子機構が重要なのか不明であり、実際に結合する部位を予測することは、まだ難しい課題です。私たちは、後述するようにDNAの脱メチル化というエピジェネティック制御に注目していますが、その分子機構は、ほぼ未解明といえます。万能細胞が、特定の細胞系列、たとえば神経細胞系に分化する時の遺伝子発現制御と、T細胞という特定の細胞系列の中で、サブセットという、さらに細かい細胞分化の制御機構は、遺伝子発現制御のしくみとして、共通のものを利用しているのか、本質的に異なるしくみなのか、大きな興味を持っています。今のところ、解析されている分子機構で、初期胚に特異的なものはありません。またiPS細胞作成の成功で示された細胞分化の可塑性は、遺伝子発現制御機構が、発生初期の分化であれ、終末分化であれ、共通性が高いことを感じさせます。 T細胞サブセット分化において、図3に示したように、特定のサブセットの分化に必要な転写因子がかなり同定されています。私たちは、T細胞サブセットの中で、Th2サブセットの分化をモデルとして解析しています。転写因子GATA3が、Th2サブセット分化に必須であることが示されています。Th2サブセットは、IL-4、IL-13、IL-5の3種類のサイトカイン遺伝子を発現しますが、これらの遺伝子は染色体上で近接して存在します。GATA3は、Th2分化の過程で、この染色体領域に結合すると考えられますが、その詳細は明らかにされておらず、その結合部位と結合により周辺にどのような作用を持つかということの解明をめざしています。Th2分化にともない、この染色体領域のヒストン修飾が大きく変化します。転写活性と相関するヒストンH3の9番リジン(H3K9)のアセチル化の誘導などが見られます。ヒストン修飾は、この領域の遺伝子が発現可能な状態にすることに重要であると考えています。サイトカイン遺伝子の多くがそうであるように、実際の転写誘導には、さらに活性化シグナルによる転写因子NFATなどの結合が必要になります。また、転写量が細胞の状態により大きく変化します。たとえば、IL-4とIL-13遺伝子の間に存在する制御領域のひとつ、CNS-1を欠失させますと、遺伝子発現量が大きく減少します。この時、エピジェネティックな変化として、ヒストン修飾には差異は見られません。ヒストン修飾は、発現を許可するかしないかのスイッチと考えると理解できます。一方、発現量の減少にともないDNAメチル化の状態が変化することを見いだしました。Th2分化を誘導する前には、プロモーター領域を除いて、DNAはメチル化されています。Th2分化にともない、この染色体領域の脱メチル化が見られ、その程度や範囲は、転写量と相関します。DNAメチル化は、変化しにくい標識として、染色体の転写活性などの状態を、細胞増殖にともなうDNA複製を通して維持、記憶するための標識と考えられてきました。生殖細胞の形成過程や受精卵において、ゲノム全体にわたるDNA脱メチル化が誘導され、これは染色体上の標識をすべて消去する、すなわちリセットに相当すると考えられています。その後、様々な細胞系列の分化にともないメチル化される染色体領域が広がり、遺伝子発現が抑制された領域として維持されます。iPS細胞の誘導にも、リセットするためのDNA脱メチル化の誘導が重要と考えられています。しかし、そのような場合だけでなく、様々に分化した細胞での遺伝子発現において、DNA脱メチル化が重要な制御機構であることが、明らかになりつつあります。 私たちは、サイトカイン遺伝子のDNA脱メチル化が、その発現制御に重要であることえお示す、新たな証拠を見いだしました。胎児や新生児のT細胞は、サイトカイン産生能が高く、活性化により、成人のT細胞より多い量のサイトカインを産生することが知られています。Th2サブセットについて見ると、プレカーサーT細胞自身がTh2サブセットを誘導するサイトカインであるIL-4を産生するため、その産生量の高い、胎児や新生児のプレカーサーT細胞はTh2サブセットに分化しやすいことになります。他の免疫細胞の性質、たとえばTh1サブセットを誘導するサイトカインIL-12が、胎児や新生児では産生されにくいなどのことも合わせて、胎児や新生児のT細胞は、Th2が優位になっていることが指摘されています。これは多くの感染症に対する防御に必要なTh1サブセットが、妊娠時の胎児と母体の間での免疫応答を促進して、流産など妊娠の維持に抑制的に作用するため、Th1サブセットの分化を抑制する必要があるためと考えられています。一方、出生後は、様々な病原体の感染に対する防御に必要なTh1サブセットを増大させることが必要になります。疾患を引き起こさない常在菌の定着なども、この免疫システムの変化を誘導するのに重要ということが明らかになりつつあります。私たちは、成人(マウスの成獣)の胸腺で成熟した、生まれたてのT細胞と、胸腺を離れ、体の様々な場所(免疫学では末梢といいます)で循環しているT細胞のT細胞サブセット分化を比較しました。胸腺の成熟したT細胞は、サイトカイン産生量が高く、Th2サブセットでのIL-4やIL-5が亢進しているだけでなく、本来Th2サブセットでは抑制されるIFNγといったサイトカインの産生も見られました(図5)。 ![]() 胸腺にいる、生まれたてのT細胞は、サイトカイン産生量が多いというだけでなく、サブセットの産生するサイトカインの種類についての特異性が減弱していると考える事もできます。胸腺から放出され末梢に移動する過程での、ひとつの成熟過程を示していると考えています。胸腺のT細胞と末梢のT細胞で、DNAの脱メチル化の解析をおこないました。胸腺のT細胞では、Th2サブセット分化を誘導後、1-2日という非常に早い時期から、脱メチル化の誘導が見られるのに対して、末梢のT細胞では、そのような早い時期では脱メチル化はほとんど検出されませんでした(図6)。 ![]() 胸腺のT細胞のサイトカイン産生能の高さは、DNA脱メチル化のおこりやすさと相関していることがわかりました。T細胞サブセットの分化は、細胞増殖をともないながら進行しますが、胸腺T細胞では、1回目の細胞分裂をする前の細胞でもDNA脱メチル化を検出しました。これはDNA複製に連動していないDNA脱メチル化である可能性を示唆します。DNA脱メチル化の分子機構は、未だ解明されておらず、T細胞サブセット分化におけるDNA脱メチル化は、その解明の手がかりを与えるのではないかと考え、その解明に取り組んでいます。 (2)GATA3結合タンパク質の解析 染色体上のどこで、このようなエピジェネティックな変化を誘導するのか、その場所を指定する役割は、GATA3が担っていると考えられますが、その分子機序を解明するには、GATA3にどのような分子が会合してくるのか、解析する必要があります。GATA3と会合し、T細胞サブセット分化に関与するタンパク質は、すでにいろいろと報告されていますが、まだ未知のものがあると考えられ、また複合体の種類や、どのようなタイミングで形成され機能するのかなど、全体像がつかめていません。そこでGATA3と会合する分子群の同定を試みています。マウスから分離した正常T細胞でおこなうことは技術的に難しいと考え、はじめは培養細胞株にGATA3を発現させ、会合するタンパク質の同定をおこないました。さらに現在、マウスから分離したT細胞で解析するため、GATA3遺伝子にタグと呼ばれる標識を挿入し、GATA3を分離しやすくしたマウスを作成しました。このマウスの T細胞は細胞数や機能に異常は見られず、T細胞サブセットも正常に分化します。培養細胞株の解析から得られたGATA3会合分子には、様々なものがあり、今後、タグを挿入したマウスから分離した正常T細胞で検証しつつあります。これまでに検出したGATA3会合分子の候補として、染色体のエピジェネティック制御に関連したコリプレッサー、クロマチンリモデリングファクター、ヒストンシャペロン、転写因子、ヒストンなどのタンパク質を修飾するヒストン脱アセチル化酵素、メチル基転移酵素、キナーゼ、フォスファターゼなどが分離されました。機能が知られていない遺伝子もあります。このなかのいくつかの分子について、ノックアウトマウス作成やノックダウン実験などの方法により、GATA3との関係やTh2サブセット分化における機能を解析しています。 図3に示されている、T細胞サブセットの分化に必須な転写因子には、T細胞に特異的であるものと、他の細胞分化においても重要であるものに分けられます。GATA3は後者の典型で、リンパ球前駆細胞からのT細胞への分化、胸腺におけるCD4陽性T細胞への分化、乳腺の分化とそれに関連して乳癌の悪性度との相関、毛嚢の分化、腎臓の発生、神経系の発生など、さまざまな臓器や組織の発生、分化に関与しています。私たちは、T細胞サブセットでの分化機構が、このような他の細胞系列におけるGATA3の機能と、どのように関連するのかの解析を始めています。これは、細胞分化という、多細胞生物が生まれるために必須のしくみについて、発生初期の細胞系列の決定のような分化と、特定の細胞種での、機能の特異性を高めるためのサブセット分化など、多様な細胞分化のメカニズムが、どのような関係に有るのか、という大きな疑問を解く鍵になると考えています。また再生医療を実現するために、解明する必要がある重要な問題と考えています。 |
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