発表論文(種子島幸祐 主任研究員ら)(2010年1月)

K. Tanegashima, K. Suzuki, Y. Nakayama, and T. Hara. Antibody-assisted enhancement of biological activities of CXCL14 in human monocytic leukemia-derived THP-1 cells and high fat diet-induced obese mice Exp. Cell Res., (in press, published on line, doi:10.1016/j.yexcr.2010.01.016)

(内容紹介)CXCL14は樹状細胞前駆細胞やNK細胞を誘引するケモカインである。以前我々は、KOマウスを用いた解析により、CXCL14が肥満性糖尿病の悪化因子であることを証明し報告した。しかし、CXCL14の細胞誘引活性は他のケモカインと比べて弱いため、受容体の探索や阻害剤のスクリーニングを行うことが困難であった。今回我々は、CXCL14のケモタクシス活性を顕著に増大させるモノクローナル抗体MAB730を同定するのに成功した。ヒト単球系白血病由来の細胞株THP-1は、CXCL14に対して微弱な走化性しか示さないが、この抗CXCL14抗体を添加すると、100倍以上のTHP-1細胞がチャンバーの裏側に向かって移動するようになる(模式図参照)。125I標識したCXCL14を用いて、THP-1細胞のバイディングアッセイを行った結果、MAB730抗体はCXCL14の低親和性受容体への結合を特異的にブロックした。また、抗体のF(abユ)2断片には活性が残るが、Fab断片にすると活性が消失した。したがって、MAB730を介したCXCL14の活性増大には、グルコーサミノグリカンを介した低親和性結合部位へのトラップ解除とリガンドの二量体化とが関与しているものと推察される。次に、この活性増進型抗CXCL14モノクローナル抗体を、高脂肪食飼育した野生型雌マウスに投与してみたところ、個体レベルでのインスリン抵抗性が増加し、耐糖能が悪化した。この実験結果は、CXCL14がインスリン感受性を低下させる重要な代謝制御因子であること示す第二の証拠である。MAB730抗体を添加したCXCL14ケモタクシスアッセイは、今後の受容体・阻害剤の探索研究に役立つものと期待される。

発表論文(田中貴代子 主任研究員ら)(2009年5月)

K. Tanaka*, S. Okamoto, Y. Ishikawa, H. Tamura, and T. Hara*. DDX1 is required for testicular tumorigenesis, partially through the transcriptional activation of 12p stem cell genes. Oncogene, 28: 2142-2151, 2009. *Corresponding author.

(内容紹介)我々はマウス胎仔の始原生殖細胞に発現する遺伝子のひとつとして、DEAD box protein familyに属するRNAヘリケースDDX1を同定した。DDX1タンパク質は成獣マウス精巣の精原細胞に強く発現していた。マウス精原細胞由来GC1細胞株におけるDDX1 mRNAの発現をsiRNA導入によりノックダウンすると、cyclin-D2, CD9, GDF3などのmRNA発現が顕著に低下した。マウスcyclin-D2遺伝子の転写開始点上流ゲノムDNAを用いたレポーターアッセイ、およびゲルシフトアッセイの結果から、DDX1はcyclin-D2遺伝子の-369 〜 -351領域に直接結合し、転写活性を高める働きをしていた。DDX1により発現制御を受けるcyclin-D2, CD9, GDF3遺伝子はいずれもヒト精巣腫瘍の70%でゲノムDNA増幅がおこる染色体12p13.3領域に局在している。そこで、ヒト精巣腫瘍由来細胞株NEC8のDDX1発現をsiRNA導入によりノックダウンしてみたところ、マウスGC1細胞株のケースと同様にcyclin-D2, CD9, GDF3遺伝子のmRNA発現が低下した。さらに、やはり12p13.3領域に局在するNANOG遺伝子の発現レベルもDDX1ノックダウンによって低下した。DDX1を発現抑制したNEC8細胞株では、空ベクターを導入したコントロール細胞と比べて、軟寒天培地でのコロニー形成能が顕著に低下し、ヌードマウス皮下での造腫瘍活性が消失した。これらの実験結果は、DDX1が12p13.3領域に局在する幹細胞遺伝子群の転写活性化因子として、精巣腫瘍の誘導に必須な役割を果たしていることを強く示唆する。

発表論文(原 孝彦・風間律子ら)(2008年1月)

T. Hara*, M. Schwieger, R. Kazama, S. Okamoto, K. Minehata, M. Ziegler, J. Lohler, and C. Stocking. Acceleration of chronic myeloproliferation by enforced expression of Meis1 or Meis3 in Icsbp-deficient bone marrow cells. Oncogene, 27: 3865-3869, 2008. *Corresponding author.

(内容紹介)TALEファミリーに属するホメオプロテインMeis1は、造血幹細胞の胎仔肝臓での増幅に重要な役割を果たす。また、Mesi1はHoxA9遺伝子やNUP98-Hox転座遺伝子の高発現を介した急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia, AML)の発症にも必須であることが最近証明された。我々は、Meis1およびMeis3が幹細胞の自己複製や白血病化にどのように関わっているのかに興味を持ち、数年をかけて研究してきた。その成果として、昨年Meis1/Mesi3がHoxとは別の遺伝子発現変異と相互作用して白血病を引き起こすことを突き止めた (Oncogene, in press)。Interferon consensus sequence binding protein (ICSBP, 別名IRF-8)ノックアウトマウス[ICSBP(-/-)マウス]は、骨髄球系前駆細胞が増加する慢性骨髄性白血病 (Chronic myeloid leukemia, CML)のモデル実験動物であり、AML発症の分子機構を研究するツールとして有用な系統である。AML患者においても66%の割合でICSBP遺伝子の発現低下が報告されていることから、ICSBP欠損はAML発症の主要な一次変異と考えられる。そこで我々は、Meis1あるいはMeis3 cDNAをICSBP(-/-)マウスの骨髄造血幹細胞に遺伝子導入した後、放射線照射した正常C57BL/6マウスに移植した。これらのマウスは移植後70日くらいから骨髄球増加症(Myeloproliferative disease, MPD)を発症し、さらに主要臓器への顆粒球浸潤とAML転化を経て、ほぼすべての個体が200日までに致死となった。この現象はICSBP(+/+)コントロールマウスの造血幹細胞にMeis1/Meis3 cDNAを導入したときにはおこらなかった。発症マウスの脾臓と肝臓におけるレトロウイルスのゲノム挿入部位をサザンブロッティングによって解析してみたところ、MPDマウスはオリゴクローナル、AMLマウスはクローナルであることがわかった(図1a)。すなわち、ICSBP欠損とMeis1高発現は直接にMPDを引き起こすが、AML発症にはさらに二次的な遺伝子変異が必要である。このAML転化の原因となった第3の遺伝子をinverse PCR法によりクローニングしたところ(Stocking博士 との共同研究)、それはHox遺伝子ではなくMn1遺伝子であった。Mn1はNUP98-HoxD13転座遺伝子産物と共同して働きAML発症を促進させる遺伝子のひとつである。この実験結果は、ICSBP欠損-Meis1高発現-Mn1高発現の組み合わせがAML発症の原因となることを証明する。Hox遺伝子群の間接的な関与を排除することはできないが、Hox以外の複数のリスク遺伝子の変異の積み重ねによってもAML発症がおこることを明確に示す結果である。

発表論文(奈良典子・中山由紀 研究員ら)(2007年8月)

N. Nara*, Y. Nakayama*, S. Okamoto, H. Tamura, M. Kiyono, M. Muraoka, K. Tanaka, C. Taya, H. Shitara, R. Ishii, H. Yonekawa, Y. Minokoshi, and T. Hara. Disruption of CXC motif chemokine ligand-14 in mice ameliorates obesity-induced insulin resistance. J. Biol. Chem., 282: 30794-30803, 2007. *First two authors were equally contributed.

(内容紹介)組織に内在するマクロファージは、炎症反応の促進や異物の貪食をするだけでなく、損傷臓器の修復や脂質代謝にも重要な機能を果たすことが近年明らかにされている。我々は、筋萎縮症マウスの骨格筋で発現高進している遺伝子産物のひとつとして、組織マクロファージに作用するケモカインCXCL14(別名BRAK)を同定した。CXCL14は癌組織で発現消失するCXCタイプのケモカインとして、1999年に米国のグループによって遺伝子クローニングされた。その後の研究により、活性化された組織マクロファージだけでなく、樹状細胞前駆細胞や乳癌上皮細胞株もCXCL14に誘引されて組織内へと浸潤することが示された。しかし、CXCL14の個体における生理的機能はまだ明らかにされていなかった。CXCL14 mRNAは、脳・肺・筋肉・脂肪組織に加えて、子宮と卵巣でも強く発現していたが、精巣では発現していなかった。そこで、我々はこの遺伝子を相同組換えにより破壊したマウス(以下、CXCL14-KOマウスと呼ぶ)を作出した。CXCL14-KOマウスでは、平均体重が同腹コントロールマウスと比べ約16%軽く、さらに内蔵白色脂肪の蓄積量がコントロールマウスの約38%に減少していた。しかし、白色脂肪組織に含まれるマクロファージ数は、CXCL14-KOマウスとコントロールマウスとで変化がなかった。マウスに高脂肪食を与えて12週間以上飼育すると、過食の分だけ内蔵白色脂肪量が蓄積し、そこに浸潤するマクロファージ数も増加することが知られている。マクロファージが惹起する慢性の炎症反応が一因となって、肥満マウスはインスリン抵抗性の2型糖尿病となる。我々の実験結果によれば、高脂肪食飼育により肥満となったマウスの内蔵白色脂肪ではCXCL14のmRNA発現とマクロファージ数が増加していた。しかし、CXCL14-KOマウスでは高脂肪食飼育に伴う白色脂肪内のマクロファージ数の増加がおこらず、肥満で誘導されるインスリン抵抗性の発症も改善されていた。また、高脂肪食飼育したCXCL14-KOマウスでは、血糖値を調節するインスリンや各種アディポカイン(アディポネクチンやRBP4など)の肥満に伴う血中レベル変動が緩和され、脂肪肝も改善されていた。次に、CXCL14を骨格筋でのみ発現させたトランスジェニックマウスを作出し、CXCL14-KOマウスと交配させたところ、肥満によるインスリン抵抗性誘導がレスキューされた。さらに我々はCXCL14が骨格筋細胞のインスリン応答を直接阻害する活性を持つことを見出した。これらの実験結果は、CXCL14はマクロファージの浸潤を介して脂肪組織での慢性炎症反応を誘導するだけでなく、糖吸収の主要組織である骨格筋の機能を直接阻害している可能性を示唆する。CXCL14は単なる炎症性ケモカインではなく、個体のエネルギー代謝を制御する重要なサイトカインであると推察される。

発表論文(藤野隆介 大学院生ら)(2006年8月)

Fujino, R.S., Ishikawa, Y., Tanaka, K., Kanatsu-Shinohara, M., Tamura, K., Kogo, H., Shinohara, T., and Hara, T. Capillary morphogenesis gene (CMG)-1 is among the genes differentially expressed in mouse male germ line stem cells and embryonic stem cells. Mol. Reprod. Dev., 73: 955-966, 2006.

(内容紹介)我々は石川雄一郎博士(臨床研・マイクロアレイ室)、篠原隆司博士(京大医学部)らとの共同研究として、精原細胞に発現しES細胞に発現していないマウス遺伝子群をマイクアレイ解析により同定した。その中から当初機能未知であったcapillary morphogenesis gene (CMG)-1遺伝子を選び、その発現と機能を解析した。CMG-1遺伝子は、データベース上でcoiledミcoil domain containing 2 (ccdc2)として登録されており、血管内皮細胞HUVECがin vitroで毛管形成するときに発現低下する遺伝子の1つとして、2001年に報告・命名された。この時点ではCMG-1タンパク質の機能は何も解っていなかった。我々はまずin situ hybridizationと精巣の細胞分画のRT-PCR解析によって、CMG-1 mRNAが成獣マウス精巣の精原細胞と精母細胞とに発現していることを確認した。CMG-1のmRNA発現量は、精巣以外では、肺、脾臓、子宮で高かった。次に、マウス精母細胞株GC-2spd(ts)を用いてCMG-1 mRNA発現をsiRNAによってノックダウンしてみたところ、細胞増殖速度に変化は観られなかったが、コンフルエント状態での細胞形態が紡錘形に変化し、さらにcyclin D2の発現がmRNA・タンパク質ともに消失した。このとき、cyclin D1, cyclin D3など他の細胞増殖関連遺伝子のmRNA発現レベルには影響が出なかったことから、CMG-1ノックダウンによるcyclin D2の発現消失は非特異的な転写抑制ではない。次にGC-2spd(ts)株を用いてマウスcyclin D2遺伝子プロモーター領域のレポーターアッセイをおこない、このCMG-1ノックダウンによるcyclin D2の発現消失が転写レベルでおこっていることを証明した。Flagタグを付けたCMG-1 cDNAのトランスフェクション実験によりCMG-1タンパク質が核に局在していたことから、CMG-1は cyclin D2の転写を制御する核内タンパク質であると我々は結論した(図)。ただし、CMG-1によるcyclin D2遺伝子の転写活性化が、プロモーター領域DNAへ直接結合することによるのか、それとも他の転写調節タンパク質への結合を介するものなのかについてはまだ不明であり、現在解析を進めている。この研究を進めていた2004年、CMG-1がクラミドモナスの繊毛タンパク質IFT-71のマウスオルソログであることが米国のグループにより発表された。この論文ではCMG-1タンパク質は血管内皮細胞の繊毛内に局在し、血管内の物質フローの調節に関与していると記載されている。また、CMG-1を最初に同定した論文では、CMG-1タンパク質はゴルジ体周囲の膜小胞に局在すると報告している。しかし、我々の解析ではCMG-1遺伝子産物は核に局在しており、上述のようにそれをノックダウンすると少なくともcyclin D2遺伝子の転写が抑制された。したがって、CMG-1タンパク質は、血管内皮細胞では繊毛タンパク質として働くが、精母細胞ではまったく異なる役割を果たしている可能性がある。べん毛や繊毛は細胞の遊走や周囲物質の流れをおこす働きを持つ。哺乳類の細胞にも無数の繊毛があることが知られているが、べん毛・繊毛内部の物質輸送がどのように制御されているかについては、これまで緑藻類クラミドモナスを用いて詳細な研究がなされてきた。最近、クラミドモナスのキネシン温度感受性変異体を用いて、べん毛内輸送系が機械的な運動だけでなく、接合成立のための細胞内シグナル伝達にも必須の役割を果たすことが報告された。また、マウスの繊毛内輸送系がHedgehogによる転写因子Gliの活性化に関与しているというレポートもある。まだこれは机の上での推測だが、CMG-1タンパク質はべん毛・繊毛という細胞の末端部と核との間における転写因子(あるいはそれを修飾する酵素)の移動を制御するシャトルとして働いている可能性がある。我々の精母細胞株を使った今回の実験結果は、細胞種に依存したCMG-1タンパク質の異なる機能を観ているのではなく、細胞内輸送系による新たな転写調節のしくみを写し出しているのかもしれない。


発表論文(藤野隆介 大学院生ら)(2006年4月)

R. Fujino, K. Tanaka, M. Morimatsu, K. Tamura, H. Kogo, and T. Hara. Spermatogonial cell-mediated activation of an IkBz-independent NF-kB pathway in Sertoli cells induces transcription of the lipocalin-2 gene. Mol. Endocrinol, 20: 904-915, 2006.

(内容紹介)精巣の分化と機能成熟は、幹細胞である精原細胞とそれをとりまくセルトリ細胞との相互作用により制御されている。精原細胞の増殖と分化が、セルトリ細胞から産生されるGDNFとSCFによってそれぞれ制御されているのが代表例である。我々は、W/Wv変異マウスの精巣では精原細胞のみが欠失しているにもかかわらず、複数のセルトリ細胞遺伝子の発現がシャットダウンされていること、そしてそれらのセルトリ細胞遺伝子の発現は精原細胞の蓄積しているjsd/jsd変異マウスの精巣では高進していることを見出していた。これらの事実は、一群のセルトリ細胞遺伝子は精原細胞依存的に発現制御されている可能性、すなわち精原細胞からセルトリ細胞への情報伝達が起っていることを示唆する。今回、我々はリポカリン2(別名24p3、NGAL)遺伝子のmRNA発現を指標にして、上記の現象を新生マウス精巣由来の初代セルトリ細胞と精原細胞との共培養によって再現した。リポカリン2タンパク質は、細菌の増殖に必須な鉄を運ぶタンパク質と高い親和性で結合するため、哺乳類を細菌感染から防御する役割を担っている。炎症反応時に出されるリポポリサッカライド(LPS)やインターロイキン1(IL-1)の刺激によって、マクロファージはリポカリン2を大量に産出することが知られている。一方、リポカリン2は精子の運動性を高めるとの報告もある。精原細胞によるセルトリ細胞遺伝子の発現誘導機構を明らかにする目的で、新生マウス由来セルトリ細胞株 (Sertoli B) を新たに樹立し、リポカリン2遺伝子のプロモーター領域解析を行った。Sertoli B細胞株に、リポカリン2遺伝子転写開始点上流3 kbのゲノムDNAを挿入したレポータープラスミドを導入し、精原細胞と接触培養したところ、リポカリン2遺伝子の転写活性が高進した。さらにこのアッセイを用いて転写活性化領域を徐々に短縮していき、精原細胞によるリポカリン2遺伝子の転写活性化に必要な責任領域を同定した。ここには転写因子NF-kBのコンセンサス配列が存在していた。そこで、クロマチン免疫沈降実験を行ったところ、NF-kBのp65がリポカリン2遺伝子プロモーター領域に特異的に結合し、精原細胞刺激依存的に核に移行することが判明した。さらにドミナントネガティブIkBaの強制発現や、siRNAを用いたNF-kBp65およびp50のノックダウンにより、精原細胞によるリポカリン2遺伝子の転写誘導は抑制された。リポカリン2遺伝子の転写誘導活性は精原細胞の培養上清に存在し、この活性物質は熱処理により失活した。精原細胞の培養上清でSertoli B細胞株を刺激した時のリポカリン2遺伝子レポーター活性は、LPSやIL-1bで刺激した時の値よりも高かった。マクロファージをリLPSやIL-1刺激した時には、NF-kBの別のコンポーネントであるIkBzが転写誘導され、これがリポカリン2遺伝子の転写誘導を引き起こすことが2004年に報告された。そこでセルトリ細胞におけるリポカリン2遺伝子の転写誘導も同様の仕組みでおこっているかどうかを決める目的で、IkBzノックアウトマウス(北大・森松正美博士より供与)を解析したところ、精巣におけるリポカリン2遺伝子の発現レベルはIkBzの有る無しに依存していなかった。以上の一連の実験結果は、セルトリ細胞では精原細胞から分泌されるサイトカインによりNF-kB経路が活性化されてリポカリン2遺伝子の転写活性化が引き起こされていること、しかしそのシグナル伝達様式は細菌感染時の免疫系細胞のそれとは異なっていること、を証明する(図)。精原細胞から分泌されるリポカリン2誘導性のサイトカインは、精巣の抗菌性を維持する上で重要な働きをしているものと推察され、現在その分子としての実体解明に取り組んでいる。

発表論文(岩槻健 元研究員ら)(2005年2月)

K. Iwatsuki, K. Tanaka, T. Kaneko, R. Kazama, S. Okamoto, Y. Nakayama, Y. Ito, M. Satake, S. Takahashi, A. Miyajima, T. Watanabe, and T. Hara. Runx1 promotes angiogenesis by downregulation of insulin-like growth factor binding protein-3. Oncogene, 24: 1129-1137, 2005.

(内容紹介)Runx1は造血発生に必須であると同時に、造血幹細胞によるAngiopoietin-1の供給を介して胎仔器官の血管網の発達にも寄与する。近年、Runx2や共通の結合パートナーであるCBFbのドミナントネガティブ体の強制発現実験により、Runx1, 2が血管内皮細胞の移動や管腔形成に直接関与する可能性が報告された。我々は、Runx1ノックアウトマウス胎仔AGM領域に由来する血管内皮前駆細胞株AEL-DR1を用いて、血管形成におけるRunx1とそれによりmRNA発現低下するInsulin-like growth factor binding protein-3 (IGFBP-3)の役割を解析した。AEL-DR1細胞にドキシサイクリン誘導ベクター(LRT-Runx1)を用いてRunx1を再発現させると、細胞増殖が部分抑制され、マトリゲル上での管腔形成能が高進した。このときAEL-DR1/LRT-Runx1細胞の培養上清中のIGFBP-3分泌量はドキシサイクリン添加によって半減していた。次に、IGFBP-3組換え体をドキシサイクリンとともに培地に添加したところ、量依存的にAEL-DR1/ LRT-Runx1細胞のマトリゲル管腔形成率が低下した。IGFBPファミリー6遺伝子の中で、IGFBP-3とIGFBP-6だけがAEL-DR1細胞に発現していたが、IGFBP-6には管腔形成阻害活性は検出されなかった。Runx1によるmRNA発現抑制と合致して、IGFBP-3遺伝子の転写開始部位上流のゲノム領域には、Runx1のコンセンサス認識配列候補が4ヶ所存在し、最も近位のDNA配列にRunx1は結合し、転写を抑制した。以上の実験事実から、Runx1は血管ネットワーク形成を阻害するIGFBP-3の転写を負に制御することにより、血管分化をサポートすることが示された(下図)。

発表論文(中山由紀研究員ら)(2004年5月)

Y. Nakayama, N. Nara, Y. Kawakita, Y. Takeshima, M. Arakawa, M. Katoh, S. Morita, K. Iwatsuki, K. Tanaka, S. Okamoto, T. Kitamura, N. Seki, R. Matsuda, M. Matsuo, K. Saito, and T. Hara. Cloning of cDNA Encoding a Regeneration-associated Muscle Protease Whose Expression is Attenuated in Cell Lines Derived from Duchenne Muscular Dystrophy Patients. Am. J. Pathol., 164: 1773-1782, 2004.

(内容紹介)ジストロフィン欠損型筋ジストロフィーの病態進行に関与する遺伝子発現の違いを明かにすることを目的として本研究をおこなった。まず、筋ジストロフィーモデルマウスMdxと正常マウスとからそれぞれ骨格筋細胞株を樹立し、マイクロアレイ解析により両者でmRNA発現量の異なる遺伝子群を同定した。その中で、RAMPプロテアーゼと名付けた新規分泌性プロテアーゼをコードするmRNAの発現は正常と比べ、Mdx筋で上昇、Mdx筋細胞株で低下していた。RAMP mRNAは筋損傷後3〜6日で特異的に誘導され(下図1)、しかも再生筋に限局していた(下図2)。次に、ベッカー型およびデュシャンヌ型筋ジストロフィー患者の筋生検細胞からも細胞株をそれぞれ樹立してRAMP遺伝子の発現をを調べたところ、筋ジストロフィー患者細胞株8例でそのmRNA発現はいずれも低下していた(下図3)。以上の結果から、RAMPプロテアーゼは筋再生に関与しており、その発現低下が筋ジストロフィーの進行に何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。

発表論文(田村浩・岡本士毅研究員ら)(2002年8月)

H. Tamura, S. Okamoto, K. Iwatsuki, Y. Futamata, K. Tanaka, Y. Nakayama, A. Miyajima, and T. Hara. In vivo differentiation of stem cells in the aorta-gonad-mesonephros region of mouse embryo and adult bone marrow. Experimental Hematology 30: 957-966, 2002.

(内容紹介)GFPトランスジェニックマウスの胎生11.5日胚AGM領域からCD45陰性細胞群を分離しbusulfan処理した新生マウスに移植すると、ドナー由来の血液細胞を安定に保持する造血系キメラマウスができる。移植して2-6ヶ月後、キメリズムの高いマウスの臓器を摘出し凍結切片を作製した。共焦点蛍光顕微鏡で観察した結果、GFP陽性細胞は肝臓、肺、腎臓、小腸、子宮に高頻度で分布していた。それらの一部はvWF因子やPECAM1を発現する血管内皮細胞を構成していた。またアルファアクチンを発現する平滑筋細胞にも分化していたが、どのマーカーも発現していないCD45陰性のGFP陽性細胞が小腸や子宮の間質層において高頻度に認められた。同様のin vivo分化は、造血幹細胞が高度に濃縮されたCD45陽性の骨髄SP細胞(Hoechst33342を排出する活性をもつある分画)を新生マウス肝に移植した場合にも観察された。また、放射線照射した成獣マウスに骨髄細胞を尾静脈注射した場合にも同様のin vivo分化がおこったので、胎生期AGM領域へマンジオブラストおよび成体骨髄幹細胞は、血液循環を通じて各臓器へと移行してCD45陰性の血管系細胞あるいは間質系細胞へと分化転換したと考えられる。一方、GFPトランスジェニックマウスのAGM領域あるいは骨髄幹細胞を移植したキメラマウスの大脳を詳細に観察したが、GFP陽性細胞は極めて稀にしか検出されなかった。骨格筋や心臓でも同様であったので、AGM/骨髄幹細胞のin vivo分化には臓器特異性があると推察される。

 GFPマウスAGM幹細胞キメラマウスの子宮凍結切片を抗PECAM1抗体(赤)で染色した。

発表論文(田中貴代子主任研究員ら) (2002年6月)

K. Tanaka, H. Tamura, H. Tanaka, M. Katoh, Y. Futamata, N. Seki, Y. Nishimune, and T. Hara. Spermatogonia-dependent expression of testicular genes in mice. Developmental Biology 246: 466-479, 2002.

(内容紹介)精原細胞に特異的な遺伝子群あるいは精原細胞による遺伝子制御情報を得るために、精原細胞が蓄積しているJSDマウスと精原細胞のほとんど存在しないW/Wvマウスの精巣の遺伝子発現をマウスcDNAマイクロアレイとRDA法を用いて網羅的に比較解析した。その結果、24種類の遺伝子群(未知遺伝子4種類を含む)がJSDマウス精巣にのみ発現ていることを見出した。これらには精巣の成熟に必要なビタミンAの輸送に関わるリポカリン群や、精巣細胞の無秩序な増殖を抑制する機能が予想されるSui1やPTP-TD14などの癌抑制遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子群は滞留睾丸手術をした場合でも発現昂進していたため、JSD変異による発現異常ではない。さらに、これらの遺伝子群すべてが精原細胞だけでなくそれを取り巻くセルトリ細胞でも発現していることを証明した。したがって精巣の初期形成段階では、幹細胞である精原細胞からそれ自身とそれを取り巻く支持細胞の増殖・分化・成熟を制御する何らかの因子が放出されていることが示唆される。この研究により精巣形成に関与する多くの遺伝子群の同定と同時に、それらの発現が精原細胞によって統括的に支配されていることを明らかにした。